嵐の中に凧を揚げた男
フランクリンの命がけの実験から始まった「電気文明」の現在地
1752年6月15日 ── ベンジャミン・フランクリンが凧で雷を捕まえた日。
270年後、人類は「電気をどう貯めるか」という問いに格闘し続けている。
命がけの実験──何を証明したのか
18世紀当時、雷は「神の怒り」や「超自然現象」と理解されていました。それを「電気の放電だ」と仮説を立て、証明しようとしたのがフランクリンです。彼はフィラデルフィア近郊の野原で、雷雨の中に鉄針をつけた凧を揚げます。湿った麻紐が電気を伝え、その先に結んだ金属の鍵が帯電したことで、雷雲が電気を持っていることが実証されました。
ただし、この実験には重大な注意が必要です。現代から見れば「自殺行為に近い」ほど危険で、後に同じ実験を追試しようとした研究者の中に感電死した人も出ています。フランクリン自身が生き残ったのは、幸運と周到な準備の組み合わせでした。また、「実験日が6月15日かどうか」「本人が直接実験したかどうか」については歴史的に諸説あります。
科学的な成果として確かなのは、①雷が電気の放電現象であること、②雷雲はプラスとマイナス両極性の電気を持つこと──この2点を証明したことです。そしてこの発見が直ちに実用化されたのが「避雷針」でした。
発見から避雷針、そして電力網へ──270年の連鎖
フランクリンの実験から直接生まれた「避雷針」は、当時の建物・船・教会を雷から守る実用的な発明として瞬く間に広まりました。現在の日本でも、建築基準法33条により高さ20mを超える建築物には避雷針の設置が義務付けられています。
しかし電気の本当の実用化は、それから約100年後を待ちます。1882年、エジソンが白熱電球と発電所・送電網をセットで実用化し、「電気を使う社会」が始まりました。そしてさらに140年後の現在、人類は「電気をどう貯めるか」という次の難問に取り組んでいます。
「電気を貯める」という人類の次の課題
再生可能エネルギー(太陽光・風力)が急速に普及する中で、「電気を貯める」技術の重要性がかつてなく高まっています。太陽光は夜間に発電できず、風力は無風時に停止する。「作った電気をどこかに蓄えておく」ことができれば、再エネを24時間安定的に使えます。
IEA(国際エネルギー機関)の試算によれば、2050年のネットゼロシナリオを実現するには、グリッドスケール(大規模系統用)蓄電池の導入容量を2022年比で約35倍・約970GWまで拡大する必要があります。これは蓄電池産業が、これから数十年にわたって巨大成長を続けることを意味します。
日本にとってのチャンスは「全固体電池」です。従来のリチウムイオン電池の液体電解質を固体に置き換えることで、安全性・エネルギー密度・充電速度が飛躍的に向上します。日本政府は2030年頃の全固体電池本格実用化を国家目標に掲げ、トヨタ・パナソニック・村田製作所などが開発を加速しています。
🔬 元研究員の視点:「蓄電」は化学×材料×電気工学の交差点
- 電池は「化学反応で電子を動かす」装置。元研究員の目線では、正極材・負極材・電解質の界面反応をいかに制御するかが性能のカギ
- 全固体電池の難しさは「固体同士の界面をどう密着させるか」という材料科学の問題。固体は液体と違って界面抵抗が大きく、反応が起きにくい
- 日本の強みは「材料」:全固体電池の正極・電解質材料で、日本企業が多数の特許を保有。「作れるのは日本だけ」という状況を作ることが国家戦略の核心
- フランクリンが「電気を瓶に貯めた」ライデン瓶から始まり、人類の「蓄電」への挑戦は270年続いている
蓄電池・再エネ関連への投資アプローチ
IEAのネットゼロシナリオが示す通り、蓄電池は「電力インフラの中核」へと格上げされつつあります。投資家としての視点を整理します。
① 材料・部品メーカー(川上):住友金属鉱山(5713)はニッケル・コバルト等の電池材料で世界シェアを持つ。旭化成(3407)は全固体電池向けセパレーターで強い。直接バイオ・技術リスクを避けつつ蓄電池成長に乗れる。
② 完成電池メーカー:パナソニックHD(6752)はテスラ向け電池で北米市場に強い。村田製作所(6981)は小型から車載まで幅広い電池事業を展開。プライム上場の大型株で流動性も高い。
③ EV・再エネとの連動:トヨタ(7203)は全固体電池に最も積極的な投資を行っており、「2027〜2028年に全固体電池搭載EVを市販化」と公言している。蓄電池株としてもEV株としても評価できる。
④ 系統用蓄電池:電力インフラとしての大型蓄電システムには東芝・日立(6501)・NEC(6701)が参入。太陽光発電の普及で系統安定化需要が急拡大中。
おわりに──「電気を貯める」という270年越しの問い
フランクリンがライデン瓶に電気を蓄えた1752年から270年、人類は「電気を使う」ことには圧倒的に成功しました。しかし「電気を貯める」問いへの答えは、まだ完成形を見ていません。
全固体電池が実用化され、大規模な系統蓄電が実現されたとき、人類はようやく「いつでもどこでも再エネ電気を使える社会」に到達します。それは太陽光や風力が「不安定な補助電源」から「主電源」になる瞬間でもあります。嵐の中に凧を揚げた男の問いへの、270年越しの答えが、今まさに形になりつつあります。
- 1752年6月15日(諸説あり)、フランクリンが凧実験で「雷は電気の放電現象」を証明。避雷針の発明に直結した命がけの科学的偉業
- この発見から始まった電気文明は、エジソンの電力網(1882年)→リチウムイオン電池商業化(1991年)→全固体電池実用化(2030年代目標)へと連鎖している
- IEA試算:2050年ネットゼロには系統用蓄電池を2022年比35倍(約970GW)まで拡大が必要。蓄電池は「電力インフラの中核」へ格上げ
- 日本の強みは材料技術。全固体電池の正極材・電解質で日本企業が多数特許を保有しており、国家戦略的に「日本でしか作れない」状況を目指している
- 投資先としては材料・部品メーカー(住友金属鉱山・旭化成)、完成電池(パナソニック・村田製作所)、EV軸(トヨタ)など多層的なアプローチが有効

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