今日5月28日は「花火の日」です。
1733年(享保18年)のこの日、隅田川で水神祭の川開きが行われ、慰霊を兼ねた花火が初めて打ち上げられました。前年の大飢饉とコレラ(当時は「コロリ病」と呼ばれた)で亡くなった方々の霊を慰めるための行事が、あの夏の風物詩の起源です。
今回は、元研究員の視点で花火の「なぜ」を科学的に解体してみます。知ってから見ると、花火大会がちょっと違う景色になりますよ。
① 花火の色の正体:炎色反応
花火の色は「炎色反応」という化学現象によるものです。金属を高温で加熱すると、原子内の電子が高エネルギー状態(励起状態)になります。その電子が元の状態に戻るとき、エネルギー差を「光」として放出します。この光の波長(=色)が元素ごとに固有なので、金属の種類によって炎の色が決まるのです。
| 元素 | 記号 | 炎の色 | 花火での役割 |
|---|---|---|---|
| リチウム | Li | 赤 | 赤色。ストロンチウムと併用されることも多い |
| ナトリウム | Na | 黄 | 炎の定番色。塩が吹きこぼれるときの黄色もこれ |
| カリウム | K | 紫 | 紫色の花火。単独だと出しにくく技術が要る |
| ストロンチウム | Sr | 紅 | 鮮やかな深紅色。赤系の主役 |
| カルシウム | Ca | 橙 | オレンジ系の暖色花火 |
| 銅 | Cu | 緑青 | 緑〜青緑。10円玉の素材でもある |
| バリウム | Ba | 黄緑 | 黄緑色。胃の検査(バリウム検査)でも有名な元素 |
📝 化学の語呂合わせ(高校化学の定番!)
「リアカー 無き K村 動力 借りると するも くれない 馬力」 リアカー=Li(赤)/無き=Na(黄)/K村=K(紫)/動力=Cu(緑青)/借りると=Ca(橙)/するも=Sr(紅)/くれない=赤系/馬力=Ba(黄緑)
色が変化する花火(「色変わり」と呼ばれるもの)の仕組みも面白いです。「星」と呼ばれる火薬の粒に、異なる金属を含む層を外側から順に重ねておくことで、外側から燃えていくにつれて層が入れ替わり、色が順番に変化します。玉ねぎのような多層構造が仕掛けられているわけです。
② なぜ光ってから音が遅れるのか
花火が光った後、少し遅れて「ドーン」という音が届く経験は誰にでもあると思います。これは光と音の速さが桁違いに違うためです。
- 光の速さ:約30万km/秒(地球を7周半/秒)
- 音の速さ:約340m/秒(気温15℃の場合)
1km離れた場所なら音は約3秒遅れます。計算式はシンプルです。
距離(m)÷ 340 = 遅れる秒数
| 花火までの距離 | 音の遅れ | 目安の場所 |
|---|---|---|
| 300m | 約0.9秒 | 打ち上げ地点のすぐ近く |
| 500m | 約1.5秒 | 隅田川花火大会・近距離観覧席 |
| 1,000m | 約2.9秒 | 一般的な観覧距離 |
| 2,000m | 約5.9秒 | 大規模大会の外周エリア |
次の花火大会では「今ドーンまで何秒かかった?」と数えてみると、花火師が打ち上げている地点までのおおよその距離がわかります。ちょっとした理科遊びとしてもおすすめです。
③ 「しだれ」はどうやって作るのか:花火玉の構造
打ち上げ花火の「玉」は大きく3つの要素で構成されています。
💥
割薬(わりやく)
玉の中心に位置。爆発して星を球状に飛ばす
✨
星(ほし)
炎色反応を起こす火薬の粒。層を重ねると色が変わる
🔵
玉皮(たまかわ)
紙製の外殻。打ち上げ中に玉を守る
導火線に火がつき、打ち上がる間に燃焼し続け、頂点で割薬に点火して爆発。星が四方八方に飛び散り、炎色反応で色を発します。
「玉が球形」だから、どこから見ても同じ形に見えます。360度対称の美しさには物理的な必然性があるわけです。
花火の種類:菊・牡丹・柳の違い
| 名前 | 特徴 |
|---|---|
| 🌸 菊(きく) | 星が尾を引きながら広がる。尾がしだれるように見える。新潟県民に特に人気とも言われる |
| 🌺 牡丹(ぼたん) | 星が尾を引かず点として飛び散る。色のインパクトが強く、スターマインに多用される |
| 🌿 柳(やなぎ) | 玉が割れた後に光が垂れ落ちていく。あの「しだれ」の正体。色が変化しながら落ちる「彩色柳」もある |
④ ねずみ花火が予測不能に動く理由
花火大会ではなく、夏の夜の家族花火で盛り上がる「ねずみ花火」。火薬を詰めた細い紙の管を小さな輪状にしたもので、点火するとくるくると回転しながら動き回り、最後にパンと破裂します。「花車(はなぐるま)」とも呼ばれます。
動く仕組みはロケットと同じ原理です。噴出口から噴き出すガスの反力(作用・反作用の法則)で本体が回転・移動します。ただし、紙管の輪は地面との接触点や微妙な変形によって噴出方向が常に変わり続けるため、どちらへ向かうかを完全に予測できません。
豆知識:夏目漱石の小説「虞美人草」(1907年)にも「糸公御前の返事はねずみ花火のようにくるくる廻っている」という表現が登場します。それだけ昔から親しまれてきた花火です。
まとめ
今回は「花火の日」にちなんで、花火の科学的な仕組みを解説しました。
- 花火の色 → 金属元素ごとに固有の炎色反応
- 音の遅れ → 光(30万km/s)と音(340m/s)の速さの差
- あの形 → 球形の玉から割薬が爆発する物理的必然
- しだれ花火 → 「柳」という種類の火薬構造
- ねずみ花火 → ロケットと同じ作用・反作用の原理
夏の花火大会では、色を見て「あれはストロンチウムかな」、音を聞いて「2秒だから680mくらい離れてるな」と考えてみてください。きっといつもとは違う楽しみ方ができると思います。
それでは、また次の記事でお会いしましょう。
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