国立銀行設立の日×渋沢栄一

6月11日 / 今日は何の日

「お金の仕組み」をゼロから作った男
渋沢栄一と第一国立銀行、そして現代のESG投資

1873年6月11日 ── 日本初の銀行が誕生した日。
150年後、その哲学は世界標準の投資思想へと進化した。

財布の中の一万円札。2024年から新しくなったその顔は、渋沢栄一です。幕末の武士が近代日本の「お金の仕組み」をゼロから設計し、1873年6月11日に日本初の銀行を誕生させました。面白いのは、彼が150年前に説いた経営哲学が、今まさに世界の投資家が注目するESG・SDGsの概念と驚くほど一致していることです。今日はその軌跡を、元研究員らしく「なぜ?」と問い直しながら追いかけてみます。

江戸の武士がなぜ「銀行」を作ったのか

渋沢栄一は1840年、埼玉県深谷市の農家に生まれました。武士ではなく農民の出身です。それが幕末の動乱の中で頭角を現し、徳川慶喜に仕える幕臣となります。そして1867年、将軍の弟・徳川昭武に随行してパリ万博を視察する機会を得ます。

ここで渋沢は、西洋経済の「仕組み」を目の当たりにします。株式会社、銀行、債券──個人の力ではなく「お金を集めて事業をする」というシステムです。「日本にもこれが必要だ」と痛感した彼は、帰国後に明治政府に出仕し、国立銀行条例を自ら起草します。

▼ 渋沢栄一と第一国立銀行の軌跡
1840年 深谷に誕生 1867年 パリ万博視察 西洋金融を学ぶ 1872年 国立銀行条例 起草・制定 1873年 第一国立銀行 設立(資本金250万円) 1916年 論語と算盤 刊行 日本初の近代的銀行誕生

第一国立銀行とは何だったのか

1873年6月11日、「国立銀行条例」に基づき第一国立銀行の設立が許可されます(正式開業は同年7月20日)。三井組と小野組が渋沢の仲介で共同出資し、資本金250万円、場所は東京・日本橋兜町。現在の東京証券取引所のすぐそばです。

「国立銀行」という名前に引っかかる方もいるかもしれません。実はこれは民間銀行です。アメリカの「National Bank」を直訳したもので、「国法によって立てられた銀行」という意味。政府が設立した銀行ではなく、国が認可した民間の株式会社でした。日本最初の株式会社でもあります。

▼ 第一国立銀行から現在のみずほ銀行まで(変遷図)
第一国立銀行 1873年 改組 1896年 第一銀行 1896年〜 三井と合併 1943年 帝国銀行 1943年〜 再編合併 1971年〜 みずほ銀行 (現在) 2002年〜 ※ 第一勧業銀行(1971)→ 富士・日本興業と合併しみずほ銀行(2002)

渋沢が残したもの──約470社の礎

渋沢栄一の凄みは、銀行をひとつ作っただけではありません。生涯で関わった企業・団体の数は約470社。王子製紙、東京ガス、東京海上保険(現東京海上日動)、帝国ホテル、キリンビール、日清紡……現在も続く日本を代表する企業の多くが彼の手から生まれています。

研究者の端くれとしてひとつ強調したいのは、渋沢が単なる「お金持ちになりたい実業家」ではなかった点です。彼には明確な哲学がありました。1916年に刊行した著書『論語と算盤』には、こんな言葉があります。

「真正の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものでない」 ── 渋沢栄一『論語と算盤』(1916年)より

道徳なき利益追求は長続きしない、という思想です。「論語(道徳)」と「算盤(経済)」は対立するものではなく、両輪で回ってこそ社会が発展する。この考えを「道徳経済合一説」と呼びます。

▼ 渋沢の「道徳経済合一説」とESG・SDGsの関係
渋沢栄一の哲学 (1916年) 論語 道徳・倫理・社会貢献 算盤 経済・利益・効率 「両輪で回る」 150年後 世界標準へ ESG投資 Environment(環境) Social(社会) Governance(企業統治) SDGs 2015年・国連採択 持続可能な開発目標 17のゴール 共通の核心 「利益だけを追うな」 「社会全体が豊かに」 「長期的な持続性を 最重視する」

150年後の「渋沢思想」──ESGと投資の現場

渋沢栄一の玄孫にあたる渋澤健氏は現在、ESG投資を専門とする運用会社「コモンズ投信」の会長を務めています。彼は祖先の思想を「100年早すぎたESG」と表現します。

ESG投資とは、企業を評価する際に財務情報だけでなく、環境(E)・社会(S)・企業統治(G)の3つの非財務情報も考慮する投資手法です。2006年に国連が「責任投資原則(PRI)」を提唱して以来、世界の機関投資家に急速に広まりました。

元研究員として着目するのは「なぜESGが広まったのか」という点です。短期的な利益のみを追求した結果、環境破壊・労働問題・会計不正が頻発しました。2001年のエンロン破綻、2008年のリーマンショック……「算盤だけを優先した」結果です。渋沢が150年前に警告した通りの展開です。

🔬 元研究員の視点:ESGは「科学的な品質管理」に似ている

  • 実験において「コスト削減のためにデータを省略する」ことが長期的な研究品質を壊すのと同様、企業も「短期利益のために社会的責任を省略する」と長期的な企業価値が崩壊する
  • ESGはその「省略してはいけない変数」を明示化したフレームワークとも言える
  • 渋沢の「論語と算盤」は、まさにその変数を直感的に理解していた
INVESTMENT PERSPECTIVE / 投資家の視点

「渋沢思想」から読む現代の投資先

渋沢の哲学が現代に甦っているとすれば、投資家としてどう動くべきか。いくつかの観点を整理します。

① ESGスコアの高い日本株:みずほFG(第一国立銀行の末裔)、東京ガス、東京海上HDなど「渋沢ゆかりの企業」の多くが、現在もESG評価で高スコアを維持しています。偶然ではなく、創業思想の継承と見ることができます。

② ESGファンド・インデックス:MSCI ESGリーダーズ指数、JPX日経400など「企業統治を重視する」指数への長期積立は、渋沢的な思想に沿った投資行動と言えます。

③ 注意点:ESGウォッシュ:ESGを名乗りながら実態が伴わない「ESGウォッシュ」企業も増加中。財務内容と合わせた定量・定性の両面評価が不可欠です。渋沢が「算盤もきちんと回せ」と言ったように。

おわりに──「お金の仕組み」を問い直す日

6月11日、第一国立銀行設立の日。一万円札の顔を眺めながら、筆者はいつもこう考えます。「このお金を何のために動かすのか」。

渋沢栄一は約470社を創業しながら、個人的な蓄財にはあまり熱心ではなく、晩年は社会事業に多くを費やしました。彼にとってお金は「目的」ではなく、社会を動かす「道具」だったのです。

投資を始めると、どうしても数字ばかり追いがちになります。でも渋沢が教えてくれるのは、「どこにお金を流すか」という問いそのものが、すでに社会への意志表明だということです。150年前の哲学が、今の私たちにも響くのはそのためかもしれません。

まとめ
  • 1873年6月11日、渋沢栄一が設計した「国立銀行条例」に基づき、日本初の銀行・第一国立銀行が設立された
  • 設立時の資本金は250万円。現在のみずほ銀行に継承されている
  • 渋沢の哲学「道徳経済合一説(論語と算盤)」は、150年後のESG・SDGsと本質的に一致する
  • ESG投資は「算盤だけを追う資本主義」への反省から生まれた。渋沢の警告が150年後に証明された形
  • 投資家として「どこにお金を流すか」という問いは、社会への意志表明でもある

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