1981年6月7日、イスラエルの戦闘機14機がイラクの首都バグダッド近郊に向けて飛び立ちました。目標は建設中の原子炉「オシラク」。わずか2分間の爆撃でその原子炉は完全に破壊されました。
あれから45年。イスラエルは2026年2月、今度はイランに対して同じことを繰り返しました。ホルムズ海峡は事実上封鎖され、原油価格は危機前の約2倍に跳ね上がりました。
歴史は繰り返す──。今回は「オシラク事件」という45年前の出来事をフックに、現在進行中の中東地政学リスクと、それが投資にどう影響するかをまとめます。
1981年6月7日──オシラク事件とは何か
イスラエル空軍のF-16×8機・F-15×6機の計14機による編隊が、サウジアラビアの領空をアラビア語で交信しながら正体を隠しつつ飛行し、イラク・バグダッド郊外のアル・トゥワイタ原子力研究センターに建設中だった軽水炉「オシラク」(イラク側呼称:タムズ)を爆撃。計16発の無誘導爆弾のうち14発が命中し、原子炉は完全に破壊されました。参加した14機は全機無傷で帰還しました。
作戦名は「オペラ作戦(別名:バビロン作戦)」。この作戦を決断したのは当時のイスラエル首相メナハム・ベギンです。「敵国が核兵器を開発しようとしているなら先制攻撃で潰す」──この原則は後に「ベギン・ドクトリン」と呼ばれ、イスラエルの国防戦略の根幹となりました。
「イラクが核兵器を保有すれば、イスラエルは核の脅威にさらされる。それを防ぐために行動した」
──メナハム・ベギン首相(当時)、作戦後の声明より
国連安全保障理事会は1981年6月19日に決議487号を全会一致で採択し、イスラエルの軍事行動を強く非難しました。日本政府も「いかなる理由があろうとも正当化できない」と談話を出しています。しかしイスラエルはこの決議を無視し続けました。
45年後に繰り返された──2026年の中東危機
オシラク事件から45年。歴史は文字通り繰り返しました。
イスラエルは2025年6月にもイランの核施設を空爆(「12日間戦争」)。そして2026年2月28日、米国とイスラエルはイランへの大規模軍事攻撃を開始しました。翌3月1日、イランの最高指導者ハメネイ師(86歳)の死亡が報じられました。
イランは即座に報復に転じ、世界の海上原油輸送量の約20%が通過するホルムズ海峡を事実上封鎖。中東諸国の石油施設や米軍基地を攻撃しました。
作戦名「壮絶な怒り」。テヘランなどを空爆。翌日ハメネイ師死亡が報じられる。後継に次男モジタバ・ハメネイ師が選出。
イランが報復。湾岸諸国の米軍基地・石油施設を攻撃。3月22日にはペルシャ湾内の滞留原油が最大約1億8,000万バレルに達する。WTI原油価格は危機前の約64ドルから急騰。
トランプ政権がイランへの攻撃を2週間停止、イランはホルムズ海峡封鎖を解除と表明。原油価格はWTI90ドル台後半に急落。株価は大幅上昇。
停戦後も米・イランの協議は難航。トランプ大統領がホルムズ海峡の「逆封鎖」を表明。原油価格は再び上昇。5月にはUAEの石油施設も被弾。
5月中旬からペルシャ湾内に滞留するタンカーの脱出が増加傾向に。日本はホルムズ経由の供給の約60%を代替ルートで確保する方針を打ち出し、米国産原油の調達を推進中。
投資家はどう見るか──4つの資産への影響
地政学リスクが高まると、特定の資産に強い影響が出ます。今回の中東危機で何が起きたかを整理します。
封鎖中は危機前の約1.7倍まで急騰。停戦合意後は急落するが、交渉が難航する中で高止まりが続く見通し。日本のガソリン価格は本来200円超のところを補助金で170円程度に抑制中。エネルギー株は中東の動向に直結。
中東情勢の緊迫化で「有事の金買い」が加速。原油高によるインフレ懸念も金に追い風。停戦合意後も地政学リスクが完全には解消されないため、金は底堅い動きが続いている。長期保有・分散の観点から注目度が高い。
日本の原油輸入の93%がホルムズ経由という構造的脆弱性が露わに。製造業のコスト増・ナフサ誘導品の供給制約が発生。ブレント原油が10%上昇すると日本企業の純利益は概ね2%下落する傾向とされる。
原油高は輸入コスト増→貿易赤字拡大→円安に作用する。三菱UFJ銀行の試算では、原油が1バレル130ドルまで上昇し封鎖が長期化した場合、円ドルは160〜165円まで進む可能性があるとされている。
地政学リスクと向き合う投資家の視点
地政学リスクは「いつ、どの程度終息するか」が読みにくく、個人投資家が対応するのは難しい側面があります。ただし、歴史から学べることはあります。
過去の地政学的ショック(1973年オイルショック・1991年湾岸戦争・2003年イラク戦争など)のパターンを振り返ると、①有事中は原油・金が上昇しやすい、②株式は短期的に下落するが長期では回復する、③円は弱含みやすいという傾向が見えます。
今回の危機で特に注目すべきは、日本のホルムズ依存という「構造的なリスク」が顕在化した点です。平時には意識されない「原油は当たり前に来るもの」という前提が崩れたとき、エネルギー関連コストの上昇が家計・企業・株式市場に波及することを、改めて実感した方も多いのではないでしょうか。
こうしたリスクへの備えとして、金ETFや原油関連資産を分散の一部として持つという考え方は、トリガー投資とは別軸で検討する価値があると思います(あくまで個人の見解です)。
▶ まとめ
- 1981年6月7日のオシラク爆撃は「敵の核を先制的に潰す」ベギン・ドクトリンの原点
- 同ドクトリンは2007年シリア、2025年12日間戦争、2026年イラン攻撃と繰り返し発動されている
- 2026年2月の米・イスラエルによるイラン攻撃でホルムズ海峡が封鎖→原油が危機前比最大70%近く高騰
- 4月に一時停戦合意も交渉は難航中。原油は当面高止まり、金は底堅い展開が続く見通し
- 日本は原油輸入の93%がホルムズ経由という構造的脆弱性を抱えており、中東情勢は他人事ではない
- 有事に強い金ETFを分散保有する意義を、改めて考えるきっかけになった出来事
投資においても「まさかこんなことが」という局面のために、分散と備えを持っておくことの大切さを、この出来事はあらためて教えてくれます。
次回は6月8日(月)、世界海洋デーをフックに「海が世界経済を支えている──海底ケーブル・深海資源・海運投資の話」をお届けします。


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